r.o.m.o.トップページ > 木もれ陽だより > 甲斐みのりのロマンチック案内



1976年静岡生まれ。文筆家。大阪芸術大学卒業後、数年を京都で過ごし、現在は東京にて、雑誌や書籍で執筆を行う。また、「女性の永遠の憧れ」「叙情のあるものつくり」をテーマに、雑貨の企画を行うブランド「Loule」(ロル)を主宰。著書に『乙女の京都』『乙女の東京』『乙女の大阪』『京都ロマンチック案内』(以上すべて小社刊)、『京都おでかけ帖〜12ヶ月の憧れ案内〜』(祥伝社)、『甘く、かわいく、おいしいお菓子』(主婦の友社)、『クラシックホテル案内』(KKベストセラーズ)、『乙女みやげ』(小学館)、『ジャーナル』(mille books)などがある。http://www.loule.net



すきなものは?
ここ数年、そんな質問をされるたび、迷いなくD-BROSと答える。
D-BROSとは、グラフィックデザインや広告制作をおこなう会社、
ドラフトを母体に発足した、プロダクトデザイン・プロジェクト。
「D-BROSのプロダクトは、女性ばかりでなく、男性にもある、
“かわいい”や“ロマンチック”を感じる心を撫でる」
ある雑誌のD-BROS特集で、いちファンとして、
こんなふうなコメントをさせていただいたことがある。
私がD-BROSを知ったのは、ものづくりを始めたばかりの京都時代。
10年もの間ずっと、目映い憧れの存在。
年月重ねるごと、さらにときめかされ、ますます好きになってゆく。
そんな、D-BROSの中心で商品デザインを手がける、
グラフィックデザイナーの植原亮輔氏。
氏の亀倉雄策賞受賞を記念して開催された展覧会場で見つめた、
詩的で言語的で音楽的な、ロマンチックの数々。



ポラロイド写真、レースペーパー、ノートの切れはし、
机の上に広がる日常をそのまま掬いだしたように、
コラージュ・デザインされた、便箋と封筒。
私はこのレターセットに、
大切な人へ伝えたい、大切な気持ちを託したことがある。
植原氏と並びD-BROSのデザイナー、渡邉良重さんによる
『UN DEUX』という本の、一番最後のページに、
綴った手紙、挟み込んで。


家にも仕事場にも、カレンダーや時計を置いていない。
けれども毎年、D-BROSのカレンダーは買う。
D-BROSのプロダクト、「秒の時計」という壁掛け時計や、
ポスターのような紙の時計も、持っている。
本当は、日々の暮らしに馴染ませてこそと解しつつ、
D-BROSのカレンダーは、宝物をしまう棚の中。
恋したように嬉しいときもそうするけれど、
たいていは行き詰まったり沈んだとき、
そっと引き出しを開け、撫でたりめくったり。
すると、停滞していた活力が動き出す。
何度も力を借りたカレンダーをあらためて見つめ、
手をかざして影で触れてみた。
そうそう、秒の時計は仕事机の横に飾っているけれど、
時間は24時間、3時ちょうどを差したまま。


シャンプーなどの詰め替え容器から着想を得たという、
「Hope forever blossoming」という名の花器。
影も展示物の一部のようで、しばし見惚れる。
展覧会場に並んでいた写真とは別の柄のものを、
部屋に花が飾られていたことなどなく、
だからもちろん花瓶もないだろう人のところへ、
花と一緒に届けようと買い求めたことがあった。
けれども、花瓶に似合う花が店先に並ぶのを待つうちに、
いつのまにかその人と会うこともなくなり、
しばらく眠らせていたままだったと思い出す。
展覧会翌日、平たい袋にたっぷり水を入れ、机の上に置く。
かぎりなく紫に近い青っぽい花を挿してみる。
透明な容器と、水と、光が、重なり屈折して、きらり光る。
ささやかなまぶしさに、目を細めずにいられなかった。


幾部屋かで構成される会場の、部屋2つ分を埋めていたのが、
植原氏が手がけた、「シアタープロダクツ」の仕事。
植原氏が亀倉雄策賞を受賞したのも、「ファッションブランド
『THEATRE PRODUCTS』のグラフィックツール」に対して。
“劇場的”な洋服を世に送り出すブランドの想いを、
植原氏が紙の中に映し出したロマンチックを通して眺める。
小さな部屋の中では、映像が流れ、
音楽を聴くことができるようにもなっていた。
「クラシックも前衛音楽も、いまここに聴こえるすべての音楽を
“現代という同じ時代”の音楽であると考える」をコンセプトに
シアタープロダクツはが運営する音楽レーベル、
シアタームジカからリリースされた、
阿部海太郎さんの『SOUNDTRACK for D-BROS』。
発売された昨年秋から、一番よく聴いている音楽。
青いグラデーションのジャケットデザインはもちろん、植原氏。


