r.o.m.o.トップページ > 木もれ陽だより > 甲斐みのりのロマンチック案内



1976年静岡生まれ。文筆家。大阪芸術大学卒業後、数年を京都で過ごし、現在は東京にて、雑誌や書籍で執筆を行う。また、「女性の永遠の憧れ」「叙情のあるものつくり」をテーマに、雑貨の企画を行うブランド「Loule」(ロル)を主宰。著書に『乙女の京都』『乙女の東京』『乙女の大阪』『京都ロマンチック案内』(以上すべて小社刊)、『京都おでかけ帖〜12ヶ月の憧れ案内〜』(祥伝社)、『甘く、かわいく、おいしいお菓子』(主婦の友社)、『クラシックホテル案内』(KKベストセラーズ)、『乙女みやげ』(小学館)、『ジャーナル』(mille books)などがある。http://www.loule.net



本をつくるときはいつも
カメラマンさんにぴったりとくっついて
息をのんでじっと、視線の先を追いかける。
ここも、あそこもと、お願いすることもある。
目の前にあった、景色や音や温度や匂いが、
どんなふうに紙に焼きつけられるのかと楽しみで、
写真が届けられる日を指折り数えて待つ。
マーブルトロンでつくらせていただいた一連の乙女本。
『乙女の京都』は米谷享さん。
『乙女の東京』と『乙女の大阪』は加藤新作さん。
『京都ロマンチック案内』』は東泰秀さん。
3人の愛すべき写真家さんたちと巡った3都市。
中でも大阪では、とりわけロマンチックな場面に遭遇。
『乙女の大阪』の、あのページのあの写真。
写真の向こう側でいったいなにがおこっていたのか、
この場を借りて、解説を。
本と照らし合わせてご覧ください。



P3「はじめに」。
大阪を、象徴も代表もする「太陽の塔」。
近くから見るか、遠くから見るか。
前から見るか、後ろから見るか。
観賞角度によって印象も異なる芸術作品。
「はじめに」に添えられている写真は、後ろから。
「平和のバラ園」越しに撮影。
右にエキスポランドのジェットコースター、
左に丹下健三デザインの建造物「大屋根」がちらり写っている。
広い広い「国立民族学博物館」を歩き回って取材をし、
館を出たら、外は夕暮れ。
張り詰めていた気が緩んだとき、目に映ったのがこの景色。
ああ、この瞬間をすぐに写真に!と、この景色を、この景色をと、
夢中で加藤さんの袖をひっぱって、シャッターを切っていただいた。
正面黄金の顔は未来、正面胴体の顔は現在、
背面の黒い顔は過去と、3つの顔を持つ太陽の塔。
夕日浴び、バラを見つめる過去の顔の麗しさ。
私が残した写真には、ジェットコースターの姿はなくて、
かわりに、観覧車とイサム・ノグチ作品「月の世界」が。


P14「水上バス アクアライナー」
P15の写真は、加藤さんに船の屋根の上から撮っていただいたもの。
P14の小さな写真は、船乗り場にいたおじさまが、
撮って撮ってとピースサインを向けてくださったところ。
『乙女の大阪』で紹介しているのは、
屋根つきの「アクアライナー」だけれど、
実のところのおすすめは、道頓堀や大阪城を巡る「水都号 アクアmini」。
屋根がついていない小さな船だから、より水上の醍醐味が体感できる。
大阪に住まう方こそぜひ一度、体験いただきたい乗り物。


P21の〈マヅラ喫茶店〉。
写真の中、にこやかに笑う蝶ネクタイのマスターの
娘さんがママをつとめているのが、P22〈king of kings〉。
ただでさえ特異な気配漂う大阪駅前第一ビルの地下1階、
さらなる、ただならぬ佇まいのマヅラとking of kingsが、
繋がりある店と知って腑に落ちた。
マヅラのマスターの接客や話術に圧倒されながら、
必死でうなずきメモをとった取材時が懐かしい。
やっぱり好きな店には取材でなく、
客として訪れたいものだとつくづく思う。
そうして取材後にすぐ、なにくわぬ顔で再び訪れ、
一杯250円の珈琲をしみじみと味わったのだった。


奇跡だ。
目の前の光景に息をのんだ。
映画撮影のエキストラだろうか、そうも思った。
P110、「おわりに」の次、『乙女の大阪』でとりを飾る写真。
午前中10時。「大阪天満宮」に、星合池を撮影するため立ち寄った。
その日は少し寝坊して、慌ててホテルを飛び出してきたから、
まだ覚めきらぬ目の中、いろとりどりのマルが飛び込んできたとき、
何事かと理解に窮した。
白い割烹着を着た奥さまたちが、
ふたところにわらわらと集まり腰掛け、おしゃべり満開。
好奇心が喉から飛び出て、奥さま方にかけよって、
なぜ今、この場所で大勢で、風船を持っているのか尋ねる。
答えは、「今日は11月15日」。七五三の祝いの日だった。
奥さまたちの役目は、参詣に来た子どもたちに風船を配ること。
神さまからのお遣いの天使のよう。
もちろん、加藤さん!加藤さん!と高揚隠せず、撮影を頼む。
『乙女の大阪』でもっとも好きな写真が撮られた、瞬間のお話し。


