r.o.m.o.トップページ > 木もれ陽だより > 甲斐みのりのロマンチック案内



1976年静岡生まれ。文筆家。大阪芸術大学卒業後、数年を京都で過ごし、現在は東京にて、雑誌や書籍で執筆を行う。また、「女性の永遠の憧れ」「叙情のあるものつくり」をテーマに、雑貨の企画を行うブランド「Loule」(ロル)を主宰。著書に『乙女の京都』『乙女の東京』『乙女の大阪』『京都ロマンチック案内』(以上すべて小社刊)、『京都おでかけ帖〜12ヶ月の憧れ案内〜』(祥伝社)、『甘く、かわいく、おいしいお菓子』(主婦の友社)、『クラシックホテル案内』(KKベストセラーズ)、『乙女みやげ』(小学館)、『ジャーナル』(mille books)などがある。http://www.loule.net



自宅から15分ほど自転車を走らせれば辿り着くホテル〈クラスカ〉は、
東急東横線の学芸大学駅を最寄り駅とするデザインホテル。
あまりに近所で宿泊する機を得られずにいるけれど、
『クラシックホテル案内』なる本を書くほどホテル好きで建築好きな私は、
内覧会のたび、趣異なる部屋部屋をのぞかせていただいている。
その部屋も、いつか紹介できればと思いながら、
今回ご案内したいのは、ホテル内にあるギャラリー&ショップ〈DO〉。
展示会では、イラスト、写真、おみやげ、日用品、
あらゆる風景に触れさせてもらっているし、
ショップでは、器にお茶に本に日用雑貨、
普段使いの愛用品をことあるごとに求めている。
そんなふうにあたりまえの毎日に、
興趣ある「もの」や「こと」を注ぎ込んでくれる〈DO〉から届いた葉書。
〈DO〉と岡尾さんで考えた『竹皮編み展』の文字に、胸躍る。
「竹皮編みは、1930年代に群馬県高崎に滞在し、日本の工芸デザインの基礎を築いたドイツ人建築家ブルーノ・タウト氏によって生まれました。
今ではただひとりの職人である前島美江さんによって受け継がれたこの素朴な素材と技術は、今の時代に顕彰すべき日本の手仕事です。
今回、パンかごや編み物かごなどをはじめとした竹皮編みを、スタイリスト岡尾美代子さんがコーディネートした空間でご覧いただきます」
おむすびを包むための竹皮は、家にも常備しているのだけど、
あの丈夫で薄いひらひらが、姿をかごに変えたらどうだろう。
早く、目で手で触れてみたいと気がせいて、初日の朝、自転車を走らせた。


編み物かご、盛りかご、弁当かご、
丸パンかご、角パンかご、裁縫かご。
これらは、竹皮編みのかごの名。
パンに弁当、明快に目的が掲げられているけれど、
もちろん中になにを入れるか、導き出すのは持ち主それぞれ。
福岡県八女地方の白竹を細かく裂き、
巻きながら針で縫い込まれ、見るからにどっしり丈夫。
その誕生は、群馬県で草履表をつくる職人の技術を、
ドイツの建築家・ブルーノ・タウトが再発見し、デザイン指導したことから。
完璧な世界は、日常生活、社会生活、純粋な精神生活から成ると唱えたり、
『日本美の再発見』などの著書で桂離宮や伊勢神宮の美しさを伝えたり、
伝統とモダニズムという側面で日本の工芸家や建築家に影響をもたらしたタウト。
現在唯一の竹皮編み作家として氏のデザインを継承する前島美江さんの手仕事を、
岡尾美代子さんが、ときに素朴にときに物語的に、重ねたり並べたり。
かごとかごの間、たくましさや、優しさや、面白さ、
目に見えるものから見えないものまで、いくつもの情景が会する様があった。
ちなみに、タウト設計の建築物で日本に現存するのは熱海の旧日向邸のみ。
竹皮編みは、タウトの面影や功績を感受できるもっとも身近な産物でもある。


いいな、ほしいなと、じっと見つめた「筒型蓋付かご-楕円」。
「竹皮編み展」に際し、岡尾さんが考えて、前島さんがつくったもの。
自分の部屋にある様を思い描けば、ため息がこぼれる。
今日は6月17日。展示は6月30日まで。
あとやく2週間、買おうかどうか、悩むのだろう。
そんな思いわずらいさえ、嬉しかったり楽しかったり。


さんさんと太陽の光が注ぐところに配された空色のワンピース。
その上、重なりあうのが、先の写真のかごの他、
岡尾さんが考えた竹皮編みバスケット。
下は「筒型蓋付かご-丸」、上が「手付きかご」。
その後、どんなに荷物になろうとも、旅先でつい買ってしまうかご。
かごだらけの私の部屋にもいつか、格別な貫禄の竹皮編みかごを迎えたい。
そのときはこんなふうに、クローゼットの横に陣取って、
ハンカチやら靴下をつめ込むような気がする。
ちなみに、手前の棕櫚ほうきは、和歌山の〈桑添勇雄商店〉からやってきたもの。
一柳京子さんの器とともに、前島美江さんのかごに寄り添う。
〈DO〉では、ふとしたところで、一生ものの銘品に出会える。


上の写真の机の上。
近づいて見てみる。
クラッカーに、ネズミの人形。
雑誌の中には宝物がつまっているから、
はさみをもって宝さがしのように立ち向かう。
紙になった、ワンピース。
バッグ、時計、指輪、帽子。
下着、リボン、靴に、おかしも。
ピンク、キャラメル、白や、黒。
綺麗、可愛い、おしゃれ、憧れ。
大人、少女、女優、モデル。
紙の中のお気に入り。
洋服、広告、コラム、地図。
箱の中にしまいこむお気に入り。
雑誌の中にとじこめられた岡尾さんのスタイリングに憧れて、
好きなものや風景を、はさみでちょきちょき、切り取っていた頃。
これはその頃、何年も前に書いた言葉。
今にも動き出しそうな、ネズミを前に、
「好き」や「かわいい」や「憧れ」という、
淡く懐かしい気持ちを、思い出す。


