r.o.m.o.トップページ > 木もれ陽だより > 甲斐みのりのロマンチック案内



1976年静岡生まれ。文筆家。大阪芸術大学卒業後、数年を京都で過ごし、現在は東京にて、雑誌や書籍で執筆を行う。また、「女性の永遠の憧れ」「叙情のあるものつくり」をテーマに、雑貨の企画を行うブランド「Loule」(ロル)を主宰。著書に『乙女の京都』『乙女の東京』『乙女の大阪』『京都ロマンチック案内』(以上すべて小社刊)、『京都おでかけ帖〜12ヶ月の憧れ案内〜』(祥伝社)、『甘く、かわいく、おいしいお菓子』(主婦の友社)、『クラシックホテル案内』(KKベストセラーズ)、『乙女みやげ』(小学館)、『ジャーナル』(mille books)などがある。http://www.loule.net



早く、あの日になればいい。
指折り数えて、夜を越えていた過ぎし日。
毎月3日と18日は、登校途中、
コンビニに立ち寄り逸る思いで『オリーブ』を買っていたし、
好きな歌手のCDや詩人の文庫本の発売日は、
部活を早退して駆け足で帰宅した。
クリスマスも、誕生日も、コンサートも、
夏休みも、卒業式も、バーゲンセールの始まりも、
同じように、早く、早くと、待ち遠しかった。
それが今は、毎日の用事にばかりせきたてられ、
ときめくような思いが入り交じった待ち遠しさを、
抱くことは滅多にない。
それは、なにかを待つということが、
苦手になってしまったのかもしれないけれど。
鈴木いづみさんから届いた封書。
開いて、読んで、眺めて、思った。
ああ、待ち遠しい。
「二つの頭の中のしみを
混ぜてみる
並べてみる
アルバムのような。
コラージュ展」
それは、加藤大さんと、鈴木いづみさん、
ふたり一緒の展覧会の知らせ。
早く、その日がくればいいと、一週間。
眠る前、毎日、願った。


加藤大さんを知ったのは、渋谷の街中。
毎日通る洋服屋の、ショーウィンドウの向こう側。
積み重なる箱に描かれた絵に惹き付けられ、足をとめた。
誰の絵だろう、しばらくの間、気になって、
洋服屋のウェブをのぞき、絵を描いたその人の名を覚えた。
外国人ではないかと予想していたから、
日本の名前に驚きもした。
それ以来ずっと、
なんでもいいから、加藤さんの絵を間近に見てみたかった。
だから、長い間付き合いのある鈴木いづみさんから、
加藤さんとともに展覧会をするのだと届いた知らせに、
胸がきゅんとしめつけられるほど、嬉しかった。
古ぼけた紙に、
描いたり塗ったり貼ったりした加藤さんの作品。
待ち遠しかった気持ち以上に、気持ちを動かした。
なんだか、泣きたくなるほどに。


そのとき、展覧会会場で、初めてお会いした加藤さん。
「どの絵が一番好きですか?」と言葉をかけられ、
指差したのがこの絵。
余白の中に漂うふたり。
少しだけ重なる手が、切ない。
「いつか、私の本の絵を描いてください」
そうお願いしたけれど、
この絵のような物語を書いてみたいと、思っている。


鈴木いづみさんのことは、
京都に住んでいたときから好きだった。
好きというより、あの頃は今よりも、
崇拝に近い感情だったかもしれない。
東京には、こんな絵を描く人がいる。
遠い遠い、人のように思えた。
そんな鈴木さんと、
仕事をご一緒させていただくことになって、
そのあとも、
私が営むブランドの商品イラストをお願いしたり、
長い間、家を留守にしなければいけないとき
猫のビドを預かってもらったり、
100%ORANGEさんの家で一緒に
ドンジャラをしたり、ごはんやケーキを食べたり。
親しくさせてもらっている。
鈴木さんは不思議だ。
会えばとてもかわいらしい女性なのに、
描く絵、つくるモノ、書く言葉、
どこかこんがらがって、複雑で、壊れていて。
別世界を写し出しているようで実は、
本当のことだらけだったりもするから、
真っすぐに見つめてしまう。
机にぽんと、並べられていた人形。
手にしていいというので、触れさせてもらった。
鈴木さんはいつものように相変わらず、
おだやかに笑っているから、
「いったい頭の中はどうなっているのですか」と
心からのぞいてみたくなる。


加藤さん、鈴木さん、ふたりでつくった作品も、
いい具合に破壊していて、高揚させられる。
目の前にある景色を、
あるがままに見つめて描いているのか、
そうではないのか、分からないから、
知りたくもなる。
ときめきを覚える。
ロマンスを感じる。
ちなみに「壊れている」は、
褒め言葉の種という補足を。
いつかまた、ふたり一緒があるのかないのか、
はかりしれないけれど、
やっぱり、待ち遠しくて、仕方がない。


