r.o.m.o.トップページ > 木もれ陽だより > 甲斐みのりのロマンチック案内



1976年静岡生まれ。文筆家。大阪芸術大学卒業後、数年を京都で過ごし、現在は東京にて、雑誌や書籍で執筆を行う。また、「女性の永遠の憧れ」「叙情のあるものつくり」をテーマに、雑貨の企画を行うブランド「Loule」(ロル)を主宰。著書に『乙女の京都』『乙女の東京』『乙女の大阪』『京都ロマンチック案内』(以上すべて小社刊)、『京都おでかけ帖〜12ヶ月の憧れ案内〜』(祥伝社)、『甘く、かわいく、おいしいお菓子』(主婦の友社)、『クラシックホテル案内』(KKベストセラーズ)、『乙女みやげ』(小学館)、『ジャーナル』(mille books)などがある。http://www.loule.net



夏は、「お菓子好きの私」が待ち望んでいた季節。
「お菓子」抜きに考えれば、秋が一番好きなのだけれど。
暖色に染まる秋のお菓子と比すれば、
夏のお菓子は、色も形も、ロマンチック揃い。
和菓子屋のガラスケースを覗きこめば、
暑さでくしゅっと緩んだ張り合いが、潤いを得てぴんと引き締まる。
とくに和菓子の風情といったら。
一見、繊細そうなベールをまとい、
実のところよく向き合えば、どれもどっしり力強い。
地に足つけてどっしりこらえながら、
表向きには美しく涼やかに、夏の風物を模してみせる。
午後の一番蒸した時間や、お風呂あがり、
「甘い涼」をぱくり、口の中に送り込む。
それが私のなによりの、夏疲れの薬。



京都の老舗菓子店〈亀屋則克〉で求めた七夕菓子。
銀河系の空の中、星と、願いを届ける短冊が浮かぶ。
ふるふるとした食感を、体がすっと吸い込んだとき、
叶うかどうか分からない願いも、
きっといつかうまくゆくような気持ちになった。


〈亀廣保〉の「茶撰菓」は、
干菓子や有平糖で季節の風物をかたどったもの。
祇園祭りの只中には、ちょこんと小さく賑やかで、
花火のように弾けそうなお菓子を包んでいただく。
箱の中、ガラス細工のように
丁寧に慎重に収められた団扇やホタル。
壊れないようそっと、京都から東京まで抱えて運んだ。


青山の骨董通り沿いにある〈菊家〉は、凛とした店構えで、
向田邦子さんが贔屓にしていたことでも有名。
小さな店内の、これまた控えめな菓子ケースの中、
数個の、瑞々しく美しい菓子が並ぶ。
欲しいものを選び伝えると、
柔らかい笑顔が印象的な女将さんはいったん奥へ下がり、
手際良くぱぱっと菓子を箱に詰める。
あまりに気持ちのよい空気が流れているから
いつもできる限り長い時間、この店に身を置きたいと思うけれど、
そんなわけで、店の戸を開けてから5分後には用事が済んでいる。
鮮やかな色の玉石と川魚を表した「清流」は、
京都の友人への贈り物を求めるため立ち寄ったとき、
偶然に出会って一目惚れした。
生菓子だから京都まで送るわけにはいかないしと、
友人には干菓子を選び、これは自分用。
仕事場へ持ち帰って包みを開くも、
ひとりで食べるのがもったいなくて、結局、夜までお預け。
「見て見て」と伝えたくて、その日は寄り道をして帰った。


神楽坂に住む人が、届けてくださったもの。
いつも通るたび、気になっていたけれど、
買う機会を得られずにいたという。
それを今日はとうとう、
この愛らしさを分かち合うことができたと、
受け取った私と同じほど、その方も嬉しそう。
たしかに夏の和菓子は、
ひとりで食べては損をしたような気がしてしまう。
麦茶片手に誰かとともに
「涼しげだね、かわいいね」なんて言い合いながら
ぱくりとするのが
もっとも美味しい食べ方だと思う。


