r.o.m.o.トップページ > 木もれ陽だより > 甲斐みのりのロマンチック案内



1976年静岡生まれ。文筆家。大阪芸術大学卒業後、数年を京都で過ごし、現在は東京にて、雑誌や書籍で執筆を行う。また、「女性の永遠の憧れ」「叙情のあるものつくり」をテーマに、雑貨の企画を行うブランド「Loule」(ロル)を主宰。著書に『乙女の京都』『乙女の東京』『乙女の大阪』『京都ロマンチック案内』(以上すべて小社刊)、『京都おでかけ帖〜12ヶ月の憧れ案内〜』(祥伝社)、『甘く、かわいく、おいしいお菓子』(主婦の友社)、『クラシックホテル案内』(KKベストセラーズ)、『乙女みやげ』(小学館)、『ジャーナル』(mille books)などがある。http://www.loule.net



本は随分、所有しているけれど、すべて仕事場の本棚の中。
自宅にあるのは、ベッドサイドに積み上げられた、
読みかけのや、これから読もうと思っている数冊だけ。
新しい年の始まりとともに、心持ちもかわって、
すでに昨年となった数日前まで
ベッドサイドにあった本を仕事場に運び、
かわりにまとめて、別のを持ってきた。
これが2010年最初の、ベッドサイドブック。



片山廣子『新編 燈火節』(月曜社)
堀辰雄『聖家族』や『楡の家』のモデルとされ、
芥川龍之介の晩年の恋人と囁かれた人。
松村みね子という名で翻訳作品を発表していた片山廣子、
生涯で唯一の随筆集。
解説で梨木香歩さんがそう書かれていたように私も、
熊井明子さんのエッセイ集『私の部屋のポプリ』で、
昭和28年、暮しの手帖社から刊行された『燈火節』のことを知った。
「裸のまづしい日々に、何か希望をもち、そして失望し、また希望し工夫をし、溜息をし、それを繰り返しくり返して生きることは愉しいと私は急に元気がでた」
「小さい荷物もあるかなしに枯野をあるく昔の女とは違つて、私たちの毎日には何かしら好い香り、うつくしい色け、豊かな味、そんなものの少しづつでも興(あた)へられる時代となつた。(中略)衣食足つてと言つた昔の人のゆめにも知らない今日のわれわれの生活はとぼしく裸であるけれど、その中にも出来るだけの知恵をしぼつて、夢を現実とを入れまぜたもろもろの好い物を見出してゆきたい」
(注:本文は旧字)
誰かにこう思われたいとか、負けたくないとかではなくて。
私は私の、楽しみを、好い香りや、うつくしい色けや、豊かな味を、
見つけていきたいと、思うのだった。


鈴木しづ子『夏みかん酢つぱしいまさら純潔など』(河出書房新社)
レコード屋でも本屋でも、自分の好みを心得ている人がいる店では、
「この頃はこんなふうなのが好きなのですが」
と伝えたあと、なにか見繕ってくださいとお願いする。
京都の恵文社一乗寺店も、そういう店だ。
店長で京都時代からの友人である堀部くんや、
10年来、ロルの担当をしてくださっている能邨さんに、
それぞれ本やCDをすすめてもらう。
「片山廣子『燈火節』の新編を買ったばかりで」
と能邨さんに話したところ
「じゃあ、これでしょう」と
本棚から引き出してくれた本。
昭和27年に失踪した女流俳人の句集であった。
家族がみな俳人という環境で育った私に、
5.7.5の言葉のリズムは、
意図せずとも耳に届く流行の歌謡曲のような馴染みもあり、
郷愁に誘う懐かしい子守唄のようなものでもある。
古本買うて驟雨をかけて来ぬ
春さむし髪に結ひたるリボンの紺
好きなものは玻 璃 薔 薇 雨 駅 指 春 雷
栞はさみあるふみをひらく白薔薇に
~すべて『夏みかん酢つぱしいまさら純潔など』より~


虫明亜呂無『仮面の女と愛の輪廻』(清流出版)
虫明亜呂無『ロマンチック街道』(話の特集)
堀部篤史『本を開いて、あの頃へ」(mille books)
恵文社一乗寺店の店長・堀部くんと
恵文社のすぐそばの気さくな店で酒杯を傾けていたときだった。
恋愛について話していたときだった。
堀部くんのカバンからでてきた『ロマンチック街道』。
虫明亜呂無がどのような人であるか。
三島由紀夫など文芸、映画、スポーツなどの評論、競馬エッセイ、
独特の美意識と深い知識で熱狂的な支持を集めた人と、
堀部くんがなにかに書いていたのを読んでいて知ってはいた。
「あげるよ」、堀部くんが差し出してくれたのは、
女のロマンとは、男のロマンを包み込むことであると、
そんな話しの途中だった。
「スポーツは恋愛に似ている。両者はともに精神と肉体からなりたって いる。それも不安定でたえず動揺している精神と、つねに精神を裏切る ことにかまけている肉体を共有することで、両者は人間の営みのおなじ 領域に属している。(中略)僕らはスポーツと恋愛の危うさを熟知して いる。それはつねに不均衡な状態で、二者択一をせまられて、おわりを 全うすることはない。完全なスポーツの勝利がないように、確実に実っ たという恋愛もない、むしろ、順調このうえもない経過のなかに、たえ ず不安と動揺をなげかけてくることに、両者の魅力が秘められているの である」
〜『ロマンチック街道』あとがきより〜
鈴木しづ子の句集を求めたのと同じ日、
堀部くんがすすめてくれたのは、
『ロマンチック街道』と同じ著者・虫明亜呂無の
『仮面の女と愛の輪廻』だった。
恋愛も、スポーツも本を読むことも。
「男のロマン」を覗き見るように、
ベッドサイドブックに並べた。


高橋順子『あさって歯医者さんに行こう』(deco)
Bluemarkの菊池敦己さんによる装幀にひかれて手に取った、
女流現代詩人・高橋順子さんの詩集。
本文の紙の質感がいい。
ページをめくるとき、
指先で言葉を撫で、
指先から言葉を吸い込むような。
「すると朝露は消えて
花々は宝石のない
宝石箱になりました
恋は
今日で終わろうとしています」
~『花野』より~
眠る前はどんな言葉も詩みたいにふわりと目の奥を漂う。
だけれどやっぱり、詩人による詩だと決された言葉は
色彩も浮かび方も限りない。


